1. Context — 背景
埼玉・飯能の酒蔵、やまね酒造。地元産の米だけで仕込み、酒造りと並行して飯能の森林保全やニホンヤマネの生態系調査にも取り組む令和元年生まれの小さな蔵である。国内の日本酒消費が縮小するなか、海外旅行者という新しい売上の入口をつくるため、インバウンド向け酒蔵ツアーの構築を伴走した。
2. Challenge — 課題
日本酒の国内出荷量はピークの4分の1まで縮小した一方、輸出額は10年で4倍以上に伸び、海外では高付加価値の日本酒への関心が高まっている。しかし「見学+試飲」という定番の型では、他の有名蔵との違いが出せず、飯能までわざわざ足を運ぶ理由にならない。
引き受けた問いは、酒蔵見学を売ることではなく、この蔵にしか語れない固有性を掘り起こし、海外の旅行者が対価を払う体験に翻訳することだった。
3. Approach — アプローチ
- テロワールの棚卸し — 蔵元への丁寧なヒアリングと、サプライチェーンの視点による物語の読み解きから始めた。米は全量が埼玉県産。仕込みに使う木桶は地元・西川材でつくられ、ペアリングの酒器には飯能焼を使う。原材料から道具、器まで、酒づくりの全工程が土地とつながっている。この構造そのものが、他のどの蔵にもない価値だった

- ストーリーの言語化・ビジュアル化 — 木桶という日本の発酵文化を支えてきた職人文化、蔵を囲む飯能の森、蔵名の由来である希少な野生動物ニホンヤマネとのつながりまでを一つの物語として編み、英語のビジュアル資料、ガイドスクリプト、英語音源データとして制作した

- 体験と販売の設計 — 「説明より体験」を原則に、蔵での解説から森の散策、河原での酒と地元食材のペアリングまでの行程を設計(雨天プラン含む)。海外OTAへの掲載と価格設計(22,000円/人)を行い、手数料・ガイド料・原価を織り込んで蔵・ガイド・運営それぞれに利益が残る分配構造を構築した


4. Impact — インパクト
このツアーのコンテンツは、その後、地域のDMO・奥むさし飯能観光協会と地域づくり会社が運営するツアーへと引き継がれた。一つの蔵の実験として始まった取り組みが、地域の観光商品として制度化され、いまも続いている。
小さな蔵にとってツアー収入そのものは大きくない。しかし、蔵の固有性を言語化した資産は残り続け、地域が海外と出会うための共有財になった。個社の支援が地域の仕組みへと引き継がれていくこの構造は、Xcraftが目指す仕事のかたちでもある。



