1. Context — 背景
岐阜県大垣市上石津町の旧牧田小学校を、株式会社クオラートと一般社団法人MOF MUSEUM NAGOYAが大垣市から借り受け、国際芸術文化交流センター「牧田レゾナンス」として立ち上げる構想が進んでいる。全体構想を描いているのは、クオラート代表で現代アーティストの水谷イズル氏である。韓国国立現代美術館や国立ロシア美術館での展示をはじめ海外での発表は40回を超え、アートプロデューサーとしても展覧会企画や古民家を活用した地域のアートイベントを手がけてきた。構想の三本柱は、①国内外のアーティストと職人を受け入れるアーティスト・イン・レジデンス、②フランス国家最優秀職人章(MOF)受章者の技を伝えるMOFミュージアムJAPON、③戦後日本の前衛芸術資料を保管するアートアーカイヴセンターであり、2025年9月には大阪・関西万博フランス館で大垣市とフランスMOF協会の包括連携協定が締結されている。Xcraftは、この構想を事業として成立させる部分を支援している。
2. Challenge — 課題
依頼は明快だった。活用できる補助金を洗い出し、申請を通したい。だが構想資料を読むと、三本柱は理念としては一体でありながら、収益構造がまったく異なることがわかる。アーティスト・イン・レジデンスは助成金と参加費に依存するフロー型、アートアーカイヴは初期投資が先行するストック型、MOFミュージアムJAPONは集客に連動する型であり、それらの事業構造が整理されておらず、投資額も回収時期も、制度ごとに異なる申請要件との対応関係も見通せない状態にあった。補助金は制度ごとに申請主体・地域要件・協働条件・対象経費等が定められており、事業の輪郭が定まらないかぎり、どの制度がどこに当たるのかを判断できない。
引き受けた問いは、どの補助金に申請するかではなく、この構想のどの部分が、どの収益構造を持つ事業として成立するかである。
3. Approach — アプローチ
- 構想を収益構造で切り分ける — 三本柱を理念の単位ではなく、収益の発生のしかたで分類した。フロー型、ストック型、集客型の三つに分け、それぞれ何に投資し、何で回収し、どの時点で単体黒字化するのかを別々に問う枠組みを整理した。
- 事業ごとに収支モデルを組む — アーティスト・イン・レジデンスは、受入人数・滞在日数・開催回数を係数として持つ三カ年PLとして設計。アートアーカイヴセンター(文化倉庫)は、㎡単価と稼働率で組む収支に初期投資・減価償却・簡易キャッシュフローを接続した三カ年モデルを組んだうえで、個室貸しと坪貸しの二段階について単価と稼働率を振った感度分析を用意した。いずれも前提値を入れ替えれば再計算できる形にし、数字そのものではなく数字をつくる仕組みを設計した。
- 補助金を要件で絞り込む — 国・県・市・民間財団にわたる21の制度を洗い出し、申請主体の適格性、地域要件、協働条件、対象経費、併用制限まで一覧に整理した。株式会社では対象外になる制度、博物館法上の登録博物館を前提とする制度、自治体や複数事業者との座組が必須の制度を対象外とし、単独で申請が成立するものを残した。
- 申請書を組み立てる — 残った制度のうち、文化庁のアーティスト・イン・レジデンス関連補助金と小規模事業者持続化補助金の二つについて、事業計画から収支計画、経費明細の整理までを支援した。後者では、全国の博物館・美術館で収蔵庫の逼迫が構造問題になっている状況を調査して市場分析に組み込み、事業上の課題として挙げた区画整備・セキュリティ・情報発信基盤を、そのまま補助事業の三つの取組として接続する構成に整えた。
- 地域に事業の接点をつくる — 拠点の内側で完結させず、上石津地域の古民家利活用に向けた構想づくりも並行して進めている。地域の資源を生かしたコンテンツづくりを担う人々、たとえば里山の循環をテーマにしたイベントを企画する料理人や、古民家を保有する不動産事業者、地域の有力者にあたり、企画の検討と関係者どうしの接続を重ねている。


4. Impact — インパクト
複数の制度に申請し、現時点で小規模事業者持続化補助金の採択が決定している。これにより、文化倉庫の区画整理・セキュリティ整備・情報発信基盤の構築に着手できる見通しが立った。ただしこの支援の成果は採択そのものではない。理念の言葉でしか語れなかった構想が、事業ごとに数字と時間軸を持つ計画に置き換わったことにある。とくに、案件ごとの単発収入に依存してきた収益構造に対して、月額課金で積み上がる文化倉庫を独立した柱として定義できたことは、拠点全体の財務基盤の設計に直結する。
補助金リストも制度名の一覧ではなく、締切・確認先・次の一手が記入された運用表として先方の手元にあり、次の申請機会は自分たちで拾える状態になった。一施設として閉じるか、地域全体の事業として広がるかは、現在進行形で醸成している地域事業者との接点の厚みが決める。構想を持つ人の隣で、それを事業の言葉に翻訳するのもXcraftの仕事である。

