2026.07.10

【SCMフレームワーク】サプライチェーン成熟度の4ステージ

青い金属製の外階段を、赤いスニーカーを履いた人が一段ずつ上っている足元の写真

サプライチェーン業務に関わる人なら知っておいて損はないフレームワークに、Supply Chain Maturity(サプライチェーンの成熟度)があります。

SCMに長年携わっている人でも、初めて耳にするという方は多いはずです。そもそも日本では、SCMを体系的に学べる機会が少ない。秘伝のタレのように磨き上げられた個々の成功事例を耳にすることはあっても、それらから共通項を抜き出してモデル化したものに触れる機会は、なかなかありません。

そんなことが本当にできるのかという疑問も湧きますが、米国にはしっかりとしたフレームワークが存在します。この記事では、APICS(現ASCM)の認定資格であるCSCP(Certified Supply Chain Professional)の教材からフレームワークを借りて、サプライチェーンの成熟度を4段階で捉える見方を紹介します。組織の現在地が把握でき、レベルアップに向けて取り組むべき施策の方向性も見えてきます。

本記事は次のような疑問を持っている方のお役に立てそうです。

私自身、CSCPの学習時にこうした疑問が次々に解けていき、ひとしきりカタルシスに浸っていました。

この記事の土台

SCM関連の記事は、私が2019年に取得したAPICS CSCPの学習内容から理論やフレームワークを借りつつ、ASCMのメンバーセミナー、海外のSCMブログ、書籍、そして私自身のSCMコンサルタント時代と化粧品メーカーでの需給プランナー時代の経験を織り交ぜて書いています。

CSCPはサプライチェーンを包括的に学ぶことに重きを置いた網羅性重視の資格です。そのため、個々の専門領域を深く掘りたい方には物足りない内容かもしれませんがご了承ください。

SCMにおける進化の4ステージ

APICSによれば、サプライチェーンには成熟度があり、そのレベルは4段階に分けられます。

そのまま英語で理解したほうが捉えやすいと思いますが、あえて日本語に訳すなら上記のようなところです。

全体像をスライドにまとめると次のようになります。別の記事で紹介しているSCORモデルという枠組みと組み合わせた図です。

サプライチェーン成熟度の4ステージ比較表。段階ごとの名称と5つの機能領域の特徴、次段階へ進む施策を並べている

このフレームワークを使う上での留意点

中身に入る前に、押さえておきたい点を挙げておきます。

ここからは、各ステージの中身を順に見ていきます。

Stage 1:Multiple Dysfunction(多重的機能不全)

ステージ1の概念図。購買・生産・物流などの機能が一つの箱に混在し、供給者と顧客との間はデータが個別にやり取りされている このステージの定義は、CSCPテキストでは次のように述べられています。

社内外問わず統制が取れていない状態。社内では明確なゴールや組織の役割が定義されておらず、社外とのやりとりにおいては発注や請求といった取引に関わるもの以外の繋がりがない。具体的には、需要予測の担当が曖昧だったり、公式には発注権限を持たないはずの開発部門がオリジナル発注書をサプライヤーへ送付していたり、発注書送付時のみサプライヤーと連絡を取る、といった状態が想定される。

APICS CSCPのテキストには、この段階の組織が陥りがちな「あるある」が列記されています(以下、CSCPテキストより翻訳。分かりにくい部分は補記しています)。

参考:CSCP Version 4.3, 2019 Edition Module 1, P.17-18

仕事をしてきた実感として、このような会社は相当数存在します。とりわけ、マーケティングドリブンでサプライチェーンへの投資が後回しになりがちな、化粧品などFMCG(Fast Moving Consumer Goods)を扱う草創期の会社に多いと見ています。このタイプの組織は、改善点を挙げ出すとキリがありません。

テキストに挙がっていないものでも、

といったアンビリーバブルな状況が山ほどあります。

この段階の企業では場当たり的なパッチワークが主流なので、スタッフは基本的に目の前の仕事に忙殺されています。こんな現場で「改善」なんて言葉を口にしようものなら、「暇そうだね、これ手伝ってくれない?」と、すぐに手が埋まります。上長に相談したくても、そもそも各機能領域にマネージャーというポジションが存在しないことすらあります。

この状況で、既存リソースだけで事態が改善されることは稀です。かといって、外部のコンサルタントを雇う金銭的余裕もなければ、対コンサルワークができる人的リソース(ヒアリングに対応する時間や、業務を第三者へ正確に伝えられる人材)もありません。

打開策はCSCPテキストにも書かれていませんが、私の仮説は、業務整理ができて、かつカオス受容度の高い人物を調達することから始めるしかない、というものです。単に合理的で頭が良いだけの人物では、既存メンバーと馬が合わず確実に失敗します。面談では頭のキレだけでなく、カオスを楽しめる人材かどうかを確認しましょう。

Stage 2:Semi-functional Enterprise(部分的機能型企業)

ステージ2の概念図。購買から流通までの機能が横一列につながり、情報が双方向に流れている

このステージの定義は、CSCPテキストでは次のように述べられています。

ステージ1と比べ、情報の流れが改善され社内の各機能領域が定義された状態。チームのミッションは明確になったが、部門間のコミュニケーションに乏しく各部署がそれぞれのKPIを追い求めてバラバラに動きがち。部門内では効率化を図る取り組みが行われているが、部門をまたいだコラボレーションは見られない。そのため、他部署にとっても価値のある情報が部門を超えて共有されず、会社としてのチャンスを逃すことがある。例えば、マーケットリサーチャーや営業担当が、既存顧客や潜在顧客の中に新たな市場機会を発見しても、その情報を商品開発部門と共有する機会が与えられないようなケースがある。尚、このステージでは顧客やサプライヤーとのパートナーシップは存在しない。

このステージの企業に見られる改善努力の例は次のとおりです(CSCPテキストより翻訳・補記)。

参考:CSCP Version 4.3, 2019 Edition Module 1, P.18-19

ステージ1と比べて明らかなのは、図から見てとれるように、各機能が明確に切り分けられ、情報の流れ(Information flow)が整備された点です。その反面、サイロ化が進み、他部署とのコミュニケーションが減ります。

前のステージで採用した高カオス受容人材が、1年ほどかけて情報の流れやサプライチェーンに関わるチームの役割を定義してくれました。おかげでチーム内の役割分担も進み、ストレスが軽減され、残業時間も減ってきた。その一方で、こんな疑問がチーム内に浮かんできます。「隣のチームは一体全体どんな仕事をやっているの?」

この段階では、他部署と火花を散らす機会が増えてきます。各機能領域にマネージャーというポジションが確立され、各チームのマネージャーは自チームの利益を死守しようと、戦士のごとく争いを始めます。全体としての効率化を図る議論はなされず、作業の押し付け合いが始まる。誰だって忙しくなりたくないし、自チームのKPIを達成してボーナスを増やしたい。それが隣のチームにとって多少の不利益になるとしても。

大半の日本企業が、ステージ1かこのステージ2にいるのではないでしょうか。ステージ1から2への飛躍は、自社の努力である程度なんとかなると考えています。むしろ第三者的介入への心理的バリアが築かれている段階なので、自社内で完結するほうが成功確率は高い気もします。ただし、ステージ1で述べた新たな人材を調達することが前提です。

ここまでは社内に閉じた世界の話でした。ステージ3からは社外との連携も始まり、サプライチェーンのレベルが一気に飛躍します。

Stage 3:Integrated Enterprise(統合型企業)

ステージ3の概念図。各機能の上にERPが横断して置かれ、すべての機能が基幹システムとつながっている

このステージの定義は、CSCPテキストでは次のように述べられています。

この段階までくると、各企業は個々の分離された機能ではなく全社的なビジネスプロセスに焦点を当て始める。このステージを特徴づけるいくつかの重要なマイルストーンとして、製造および全社的なソフトウェアの導入、部門を超えたコミュニケーションとトレーニングの増加、一元的に配置され簡単にアクセスできるデータベースとファイル、すべての関係部門の代表者が出席する定期的なS&OPミーティング等が挙げられる。また、部分的にサプライチェーン上のその他パートナーとの結びつきが強化されている。

ステージ2と比較して顕著に異なる点は次のとおりです(CSCPテキストより翻訳・補記)。

参考:CSCP Version 4.3, 2019 Edition Module 1, P.20

外部知見を使い倒せる資金力のある大企業には、このレベルに到達しているケースもありますが、ごく少数派です。私がいたような総合系コンサルティングファームのSCM・BPR案件は、このあたりのプロジェクトが多かった気がします(2015〜2018年頃の話)。

ステージ2から3への移行には、どうしても外部知見が必要になってきます。各機能領域の業務に精通しつつ俯瞰で見ることができるプロフェッショナルや、全社的なERP導入プロジェクトをマネジメントできるPMO的な存在が求められます。

ここで、ステージ1で登場した「業務整理ができて、かつカオス受容度の高い人物」が水面下で作成していたシステム概念図や業務フローなどのドキュメントが力を発揮します。業務パターンを整理した運用一覧のようなものがあれば、ヒアリングにやってきたコンサルタントは興奮します。業務コンサルにとって、こうした内部のキーマンの存在がプロジェクト成功の鍵を握ります。

外部の力を借りて、各組織が有機的に連動できるようになりました。しかし、プロジェクトが成功に終わったとしても油断は禁物です。ここからはカルチャーレベルで変革を起こさないと、簡単にステージ2へ逆戻りします。この段階でHR系のコンサルタントも含め、組織やカルチャーにテコ入れするのが良いでしょう。

Stage 4:Extended Enterprise(拡張型企業)

ステージ4の概念図。供給者の供給者から顧客の顧客までが連なり、上部を情報ネットワークが横断している

このステージの定義は、CSCPテキストでは次のように述べられています。

このステージでは、少なくとも一つのビジネスプロセスが個々の企業の境界を越えて繋がり出す。核となる企業が、計画・設計・在庫補充・物流、またはその他のビジネスプロセスについて、サプライヤーや顧客と協力することで、サプライチェーンの端から端まで拡張した事業体を実現するための障壁が取り除かれる。このタイプの企業(事業体)は、自社の内部ネットワークと、提携したサプライチェーンパートナーの内部ネットワークを統合し、効率性、製品・サービスの品質、またはその両方を向上させる。一般的に、外部とのパートナーシップから始まる。

このステージの特徴は次のとおりです(CSCPテキストより翻訳・補記)。

参考:CSCP Version 4.3, 2019 Edition Module 1, P.21-22

ステージ4だけ圧倒的な文章量です。CSCP運営側の熱意が伝わってきます。

図からも分かるように、最も大きな特徴はサプライヤーとカスタマーが枠内に統合されている点です。ここまで来ると、enterpriseはもはや「企業」ではなく「事業体」と訳すほうが適切に思えます。企業内の組織が統合できているだけでなく、サプライヤーやカスタマーを含めて、組織レベル・システムレベルで有機的につながっている状態です。

代表例としては、前述のDellモデルやP&G×ウォルマートのパートナーシップが有名です(3社とも、Gartner社のThe Gartner Supply Chain Top 25の常連組)。Dell社とそのサプライヤーは「Value Chain」と呼ばれる社内ウェブサイトを通じて相互連携しており、このサイトからサプライチェーン上の在庫状況や需要・生産に関するデータを閲覧できます。得られるメリットは相当なものでしょうが、この可視性が実現されるまでの過酷な道のりは想像に難くありません。第三者の介在なしにこのステージへ到達するのは難しいはずです。

図を注意深く見ると、Supplier’s Suppliers(サプライヤーのサプライヤー)やCustomer’s Customers(顧客の顧客)までスコープに入っています(別の記事で紹介しているSCORモデルも同じスコープです)。ここまで拡張されたサプライチェーンは実在するのか。個人的に研究してみたいテーマです。

この最終形態のイメージは、水平的なサプライチェーンでありながら、コントロールの程度という意味ではかつてのヘンリー・フォードの垂直統合型サプライチェーンを彷彿とさせます。Neo Henry Ford型とでも呼ぶべきでしょうか。ここはもはや未開の境地です。まだ見ぬ世界を構想・可視化でき、領域横断的なファシリテーション能力を持つ第三者と共にプロジェクトを進めると面白そうですね。

現在地から、どこへ向かうか

各ステージとも明確な定義があるわけではなく、「あるある」的な特徴がいくつか述べられているだけなので、いくらか気持ち悪さも残ります。それでも、自身の所属する組織の現在地と、今後目指すべき方向性は見えてくるのではないでしょうか。

調査したわけではないですが、日本企業の実情はほとんどがステージ1か2ではないでしょうか。大手のコンサルティングファームが相手にするような会社は、おそらくステージ3か4(もしくは2の後半)が大半。そしてステージ3・4レベルの会社でも、サプライチェーンの末端企業は実はステージ1レベルのカオスな状況、ということがしばしばあります。

経験上、この段階の組織は社員を心身ともに疲弊させ、クリエイティビティを奪います。分かりやすくトップラインを上げていくのも大事ですが、サプライチェーンというこの混沌とした世界を変えていく人材も、等しく貴重な存在です。

Xcraftは、そうした現場で構想と実務のあいだをつなぐ役割を担いたいと考えています。この記事が、混沌のただなかに立つ方の思考材料になれば幸いです。

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